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第2回 コラム 有機ELメーカ各社の技術戦略(FPD International 2007 講演より)

まず私のバックグラウンドを申し上げますと、もともとは金融の世界におりまして、その後、こうして知財の世界に転向しまして、今ちょうど金融に携わっていた期間と知財に携わっている期間が同じくらいになります。今回は、久しぶりに読んだ金融に関する本をきっかけに、企業における技術資産について考えてみました。


学者の中には、目隠しした猿にウォール・ストリート・ジャーナルめがけてダーツ投げをさせて銘柄を選んでも、プロのファンド・マネジャーと同じくらいの成果が得られる、とまで言う者もいる。(「ウォール街のランダム・ウォーク」、バートン・マルキール著/井出正介訳、日本経済新聞社)
これは、バートン・マルキール氏の書いた「ウォール街のランダム・ウォーク」という本に書かれた一文です。この本は個人投資家向けに書かれたものであり、主に株式投資に関する様々な考え方が解説されています。この本では、株価予測の方法として、テクニカル分析とファンダメンタル分析の2つが紹介されています。テクニカル分析とは、過去の株価のパターンを読むことで今後の株価の動きを予測しようというものです。一方、ファンダメンタル分析とは、株価の動きではなく、企業の経営状況などを分析することにより、株式の価値を推定しようとするものです。さらにマルキール氏は、これらいずれの考え方も役に立たないとする考え方があることも紹介しています。それが、株価は「ランダム・ウォーク」するというものです。
ランダム・ウォークとはすなわち、ランダムなプロセスから得られた一連の数値のことであると本書に定義されています。すなわち、株価の動きは乱数の動きと同じくらいにその動きが読みづらく、従って過去の株価のパターンを分析しても、また過去の企業の業績を分析しても、将来の株価の動きを予測することは困難であるということなのです。
では、なぜ株価はランダム・ウォークをするのでしょうか。本書では、「市場の効率性」をその要因に挙げています。すなわち、市場に参加するすべての投資家はありとあらゆる情報を瞬時に獲得し、投資判断に反映させることができ、投資家間の情報の格差は存在しないため、ある投資家がどれだけ念入りに過去を分析したとしても、他の投資家を出し抜くことはできないということなのです。そういった中では、結局テクニカル分析もファンダメンタル分析も役に立たず、最初に引用したように、プロのファンド・マネジャーが目隠しをした猿がダーツ投げで決めた投資に太刀打ちできない、という結論につながるのです。ただ、マルキール氏もこのランダム・ウォーク論はやや極端であるとしており、テクニカル分析にはやや否定的であるものの、ファンダメンタル分析は引続き有用としているようですが。


さて、話は変わって、企業の経営そのものに目を移していくことにすると、本書でいう投資とは、企業の経営においては「どの市場をターゲットとするのか」というのが一つ近いものとして挙げられるでしょう。どの地域に住むどのお客様のどういったニーズをターゲットとするのか、ということです。それは、薄型化したテレビといった新製品かもしれないし、中国やBRICSといった新市場かもしれないし、朝のコーヒーといった時間かもしれません。企業においては、どのファクターに注力すれば自社を最も成長させることができるかということが非常に重要な検討事項であります。有望な市場を探すということは今も昔も非常に難しい問題でありますが、一方でインターネットの発達やグローバル化などにより、今後、そういった市場に関する情報の収集のスピードと容易さはさらに向上していく可能性があると思われます。まさに、株式市場における「効率的な市場」と同じで、誰もが有望な市場を素早く発見できるということなのです。
しかし、そうであっても企業経営はランダム・ウォークしないし、目隠しした猿に負けることはないと私は考えます。なぜなら、各企業が持つ事業力は異なっており、それぞれユニークであるからです。投資家が持つのは“お金”であり、ある投資家と別の投資家が持つ“お金”に違いがあるわけではありません。しかし、各企業が持つ事業力、すなわち事業化するためのヒト、モノ、技術は、企業によって様々です。従って、同じ市場を目指す複数の企業があったとしても、その事業化の方法はそれぞれ異なり、その市場で成功する企業もあれば、そうでない企業もあるであるでしょう。また、成功した企業の中でも、大きく成功する企業もあれば、堅実に成功していく企業もいるなど、成功の形も様々でしょう 。


このコラムを読んでくださる皆様には釈迦に説法かと思いますが、企業が成長し続けていくためには、いかにいち早く有望な市場を探し、その市場に入り込んでいくかということが一つの重要な課題でありましょう。しかし一方で、自社の宝であるヒトやモノ、技術といった様々な資産をきちんと把握し、自分なりの市場へのアプローチを確立していくことも重要だと考えます。そして、企業の技術資産を特許情報から分析し、お客様の大切な技術資産の価値の把握を支援することで、お客様を応援していきたいというのが私の願いであります。

 

後藤 陽子
2007年11月28日

 

 
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